尾崎豊・吉岡秀隆

■1992/7 【Say good-by to the sky way】リム出版より抜粋

(彼のほんのわずかな友人のひとりが俳優の吉岡秀隆だった。
彼は追悼式では弔辞を読んだ。
彼は彼の作品の映画の主役を演じるのが夢だった)
「尾崎さんは心の純粋な人でした。
そして真っすぐで絶対に曲がっていない。
それが崩れると、あるいは崩されるような状況になると、ダメになってしまう。
気にしなくてもいいような小さな事にも悩み、傷つく。
そんな時に僕に電話がかかってくる。
僕は思う。
頼りにされているんだ。しっかり支えてあげよう。でも、それが痛ましくて・・・。
だから、片時も目が離せないんです。
僕は尾崎さんを尊敬して自分のほうからお願いしてお付き合いをさせてもらった。
だけど、最後は僕がいてあげなきゃいけない、と思うようになった。
尾崎さんはそういう人でした。」


【シェリーが始まりだった】
「君、僕と一緒に酒を飲んだことがなかったかな。
どうして僕は君のことを知っているんだろう」
彼(尾崎)が吉岡に話しかけてきた。
「『北の国から』で『I LOVE YOU』を使わせていただきました」
これは吉岡がスタッフに「どうしても使ってもらえませんか」と頼んだものだった。
彼は、その後、吉岡を捉えて離さない、透明な笑顔を向けて、言った。
「あ、あの男の子か。すごく良かったよ。今度、連絡するから一緒に飲もう」
彼も吉岡を好きになった。彼は当時のスタッフたちに、
「吉岡はいい。あいつはいい役者だ。あいつは気になる」と話していた。
吉岡はその後、何度か彼に電話を入れようとしたが、
一度会ったきりで、それも失礼かと思い、ずっと堪えていた。
と、彼から電話がきた。
「おまえ、人がせっかく電話番号を教えたのに、どうしてかけてこないんだ」
彼一流の愛情表現だった。
シャイな彼は好きな相手にはちょっと乱暴な言葉使いをする。
「なれなれしく電話できるような立場ではありません」
吉岡が言うと、彼は、
「そんなことはない。電話をくれ」と強く言った。
それから吉岡も遠慮しながらだが、彼に電話を入れるようになった。
だが、彼から電話がかかってくることのほうが多かった。
吉岡はそれが嬉しかった。
彼は吉岡を弟のように可愛がった。
いつも吉岡の話をするようになった。
彼は彼の兄の康を尊敬し、愛していたが、吉岡にこう言った。
「兄貴が俺に教えてくれたことはいっぱいある。
だから俺も兄貴のようにおまえに伝えていきたい」
吉岡は嬉しかった。「はい」と答えた。
ある時、彼が吉岡をスタッフに紹介した。その時、吉岡はおどけて
「尾崎組特攻隊長の吉岡です」とひとりひとりに頭を下げた。
純粋な気持だったし、冗談でもあった。
だが、彼は吉岡と二人になると、
「おまえは何故、あんな言い方をするんだ。自分を卑下するのはよせ。
俺はおまえのことをそんな風に思ってはいない。
おまえは俺の弟なんだ。もうあんな言い方はするな。」と少し怒った。
それから彼は親しいスタッフや友人に吉岡を紹介する時に、
「俺の弟だ」と紹介するようになった。
その友人は「本当に腹違いの弟かと思った」と彼に言った。
「おまえが真剣に役者をやろうと思っているんだったら、命がけでやれ。
役者をやって、人を感動させ、人の心を幸せにしてあげなくちゃいけない。
それが義務だ。
それに対し、邪魔をする奴がいたら、俺のところに連絡しろ。
俺がいつでも助けてやる」彼は吉岡に言った。
それは怖いほどの愛情だった。