尾崎豊への手紙より(1992/リム出版)


*はじめに*
尾崎豊は、誰のものでもなく、ファンのものだった。
彼の作品、あるいは生き方について、多くの人々が答えを出そうとしたが
彼は常にそういったことを拒否していた。
彼の歌を聴いたファンのひとりひとりが感じたこと。
それが彼の全てである。

そしてそれが彼のメッセージであり、彼らのメッセージなのだ。 以下略。



■アーティスト・尾崎豊が伝えたかった事
アイソトープ社員 喜安大祐

僕にとって尾崎豊の数々の歌は、巷でいわれているような自分への励みや、
代弁といった意味合いよりも、僕が生きていく間に必要な本当の、本物の、沢山の、
いろいろな価値観を気付かせてくれるためにあったという感じでした。
尾崎豊の歌を聞くことがなければ、そのようなことには気付きもせず、
表向きの形だけを繕ったいい加減な者になっていたと断言できるでしょう。
まだまだそんな大層なことを言えるような人間にはなれませんが、"本物の価値観"を意識ながら
生きるということを教えてくれたのが、尾崎豊の歌でした。
しかし、沢山の不安が頭の中を過ぎることもありました。
本当に自分が一つ一つ見つけてきた価値観が間違ってはいないのか?
とか、自分の生きてゆく方向は正しいのか?
等、その場その場で見つけてきた瞬間は絶対の自信をもって見つけ出したものなのですが、
それが溜まって自分という人間が、1つの形として浮かび上がってきた時の不安を、
いつになっても引きずっていました。
そういう状態でアイソトープの一員となり、短い間ですが
”尾崎豊”という人間と接して感じ取ったものは、尾崎豊が今までに発したすべての言葉は
"純粋"であり"本物"であった、ということでした。
僕はそれまで長いこと考えていました。
世の中は思ったほど筋が通ってなく、いつまでたっても人々の欲望の力加減の中で成り立っているのか?
日々生きている日常の中でそんな風潮を受け入れられない自分がおかしいのか?
それとも自分と対峙する世の中がおかしいのか?・・・・・。
それが、入って間もない時僕の目を見ながら
社長としての尾崎豊からこんな話をされたことがありました。
「いいか、沢山の儲けたい奴がYUTAKA OZAKI に群がってくるが、
そんな奴のために歌っているんじゃない、
俺は、俺のファンが、真面目に俺を求めているからこそ
歌い続けるんだし、歌い続けていられるんだ・・・・・」
そんな言葉を聞いたとき、自問自答しながら苛立っていた気持ちは何処かへスッと消えて、
正しい方向へとそのまま一歩前へ踏み出せば良いのだという自信と勇気が湧いてくる
と同時に、まっすぐに生きる事の難しさと大切さの重みを感じることが出来ました。
細かいニュアンスをここで書きつくすことは出来そうもありませんが、
こんな例に限らず、沢山あった不安や疑問の全てが接しているうちに解けていったのです。
こんな体験は僕にとって初めての事でした。
そうやってほんの少しの間、接していただけで、自分の中の数々の答えが
解けていってしまうくらいですから、こんな形で途切れてしまうのは無念でなりません。
残った僕達に出来る事といえば、アーティスト・尾崎豊が伝えたかった事を正しく受け止めて、

自分の中で暖めて生きていく事、
それが肉体は滅びても尾崎豊の魂が生きている『証』になるのだと僕は信じております。
社長は僕達に向かってこう言っていたこともありました。
「こうやって一生懸命やってることの答えは、結局死んだ時に出るのだと思う・・・・・」
社長にどんな答えが出たのか、今となっては知るよしもありませんが、
きっと想像も出来ない答えが出ていることと思います。
僕もこれから先、いったい何が起るのかは全く分かりませんが、
今を信じて沢山の経験と本物の価値観を自分の中で暖め、
誰にも後ろ指をさされぬ様に生きていくことを忘れないようにしたい、そう思っております。
短い期間ではありましたが、尾崎豊を社長と呼ぶ事が出来た事は僕の誇りであり、
接した中で学んだいくつもの事柄は、
僕がこれから生きていく上で必ずや大きなプラスとなると思います。
それを自分の"宝"として、いつまでも忘れずに生き抜いて行こうと思います。
ありがとうございました。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
社長、お休みなさい。
___________________________________________________________________________________________________________
■尾崎豊は、本物だったんだ
アイソトープ社員 小川快
平成4年4月25日、尾崎豊が逝ってしまった。
俺がこれからしていかなければならない事は、ファンとしてよりも、
スタッフからの目で視てきた"彼"を伝えていくことだと思う。
その事で、アーティスト"YUTAKAOZAKI"より、人間"尾崎豊"としての彼を感じとって欲しい。
尾崎豊と初めて出会った日、高校を中退してた俺に彼は、こう言ってくれたんだ。
「学歴なんて、関係ない。これからは、精神的なシャドウ・ボクシングをしなさい。
俺がお前のトレーナーがわりになってやるから、ついて来い。」と。
本物だった。
俺は、よく相手の目を見て、人を判断するが、あの瞳は、本物だった。
どこの馬の骨かも分からない18歳のくそガキだった俺にとって、それは強烈だった。
尾崎豊は本物だったんだ。そう思った。
それからの俺は、"人間"尾崎豊に心を奪わっぱなしだった。
彼は、誰に対してもそういった気配りを見せていた様に思う。
あの人の優しさって、一体どこからきているのだろう。
他人への思いやりって、一体何なのだろう。
そういった事を久し振りに、俺は本気で考えさせられた。
ただ、世間一般で言われてる、"カリスマ" だとか"教祖"とかは、全く感じなかった。
自分にとっては、社長という存在だったけれど、
ちょっとでも仕事というものを離れれば、本当に普通の26歳の男。
普通の一人の人間。
バカな話もするし、 道を歩きながらハンバーガーを両手に抱えて食べたりもするし・・・・・。
よく飲みに連れていってもらったりもしたのだけれども、楽しい酒ばかりだった。
ある日、こんな事があったんだ。
俺が少林寺拳法をやっていた事があって、
お互いに武道をやっているという事で気が合って、いろいろ話をしているうちに、
「ちょっと、かかって来い!」
って事になったんだ。
で、まあ軽くやりあっていたら俺の顔面に彼の正拳がピシッと一発はいったんだ。
「悪い、悪い」。
で、結局その後も三発ぐらい入れられたんだけどね。
次の日、仕事をしてたら、彼からTELがあって。
「あのさぁ、誰かから聞いたんだけれど、俺、お前の事、殴ったって本当?」・・・・・。
な、最高だろ。
「しゃ、社長ぉ〜〜〜」って感じだよ。とにかく何もかもが最高だったよ。
最高って言葉は、この人の為にあるもんなんだって、本気で思った。
カラオケだって「歌って」って、言われれば嫌な顔一つ見せずに歌ってくれるし。
尾崎豊程のビッグな人だったら普通は気取って、歌ったりなんかしないよ。
仮に歌ったりしても、金取るよ。金をさ。
そういう人だったんだ。尾崎豊って人間は。
その彼をおもしろおかしく書いたマスコミを、俺は絶対に許さない。
全部が全部、そうだとは言わないけれど、・・・・・。
ある雑誌にこんな事が書かれていた。
「彼と仕事をしていると、すぐ文句をつけられるんだ。二度と一緒に仕事をしたくない」。
ある奴はこう言った。
「彼は、ただの甘えん坊の弱虫だった」。
お前らに何が分かるって言うんだ!
妥協、妥協のこの世の中で、おかしい事をおかしいって言って、何がいけないんだ。
そうやってぶつかりあって、ギリギリの線でやっていかなきゃ本物なんて出来ないんじゃないのか。
そんな事も気付かない、お前らは偽者だよ。
だいたい、お前らは自分のやってる事に誇りが持てるか?
御遺族の方々の気持ちも考えないで、好き勝手やってて・・・・・そういう事してて、
自分に誇りが持てるのか?
少しは自分の身になって御遺族の気持ちを考えてみろ!
少なくとも、尾崎豊は、自分のやって来たことに関して、ケジメをつけてた。
自分に誇りを持ってた。
尾崎豊を愛してきた、いや、愛し続けている人々へ。
振り回されないで欲しい。
確かに尾崎豊は、この世にはもういない。
でもあなた方の心の中には、尾崎豊の魂はいつでも宿っている。
尾崎は私達に人間としての在り方を教えてくれた。
今度は、あなた達の番だ。
結局、人間は一人きりなのかも知れない。
誰とも分かり合える事なんて出来ないのかも知れない。
尾崎は、俺達スタッフにいつも言っていた。
「お前らがファンを裏切ったら、俺は絶対に許さない。
俺がファンを裏切った時は、その時は、お前らが俺を殺れ」。
あなた達が出来る事は、本当の意味で人間らしく、誰よりも人間らしく生き続けていく事だ。
それが尾崎豊という一人の人間への恩返しなんじゃないのかな。
尾崎がいないからって、自分を見失うのではなく、自分に誇りを持って生き続けて欲しい。
俺はそう祈っている。
そして、誰よりも人間らしかった尾崎豊社長へ。
俺は、あなたに何も出来なかったかも知れない。
でも、今度は俺達アイソトープ社員一同、社長の命に誓って会社を守ります。
本物の価値観、勇気、優しさ、愛を私達に与えて下さって
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
言葉にうまく出来ないですが、皆は大丈夫です。
理想と現実という問題がありますが、
あなたが一番心配なさっているだろうファンの事は、
俺達が必ずや守り続けていきます。だから安心してお眠り下さい。
心より尾崎豊社長の御冥福をお祈り致します。
_______________________________________________________________________________________________________
■社長があまりにも奇麗な心の持ち主だから
アイソトープ社員 永江麻希子

立っているのがやっとだった。
夜の帳が落ちて、闇がすべてを包み込む様に彼が瞼を閉じたから、
私は瞬きもできず、立っているのがやっとだったの。
社長はファンだった私にとって血液の様な存在だった。
常に体全体にかよっていて、意識していない時でも流れ続けてた。
傷ついて血が出た時は改めて大切さを知ったりした。
アイソトープに入って社長の下で働かせてもらう様になってからもそれは変わらなかった。
だからその血液が止まるなんて考えもしなかったの。
血液の流れが止まるという事は、生きられないって事で
少なくとも自分が死んでしまうなんて考えてなかったから、
4月25日に味わった恐怖は予期せぬ事だったんだ。
でも、血液は流れ続け私は今生きてます。
これはいつか皆に伝えたかった事だから私の話を聞いて。
私が一番好きだった「尾崎豊」は、アーティストとしても勿論
やっぱり社長の彼だった。
いつもバッチリ決まってるダンディーな背広姿。
ナチュラルな髪型。
仕事に対して厳しい一面。
高い声で大笑いしたり、満腹君やちびまる子の花輪君のものまねを
得意そうに披露する社長が大好きだった。
社長は瞬時に表情を変えリアクションをつけ、
体いっぱいで話してくれるから聞いてると興奮するんだ。
私達STAFFの前ではいつも明るく、
たまにふと真剣な顔になったかと思うととんでもないギャグをとばしていた社長も、
時には涙をこらえながら自分の過去を話して聴かせてくれた事もあった。
私は社長のことが少しでも深く知りたくて、
社長が口にする言葉一つ一つを懸命に飲み込もうとしてました。
だけど社長を知れば知るほど自分の醜さが露になる様で怖かった。
社長があまりにも奇麗な心の持ち主だから、
そんな人の前に出された私は自分が恥ずかしくなる位だったの。
だからだと思う。社長が私にこう聞いたの。
「なぁ、君は俺がどうして歌を歌ってるのかわかるかい?」
私は必死になってその答えにふさわしい言葉を捜した。
だけど見つからなくて、以前社長が話してくれた事を思い出して言った。
「将来はコンサートの上がりの半分でもいいから施設に寄付したい、
それが社長の目標ですよね・・・・・」。
そしたらね。
社長は黙ってうつむいて、次に顔をあげた瞬間こう言ったの。
「俺は弱い人間を守りたいんだ。」
解らなかった訳じゃないの。
別に社長が難しい言葉を使った訳じゃないの。
私には見つからなかった言葉なの。
"弱い人間を守りたい"って。
だけど本当はわからなかったのかも知れないね。
もう、その言葉を聞いた時から私は社長の顔が見れなくなってしまった。
ずっと下を向いて黙ってた。
私はなんてバカなんだろうって自分を責めた。
もう何もできない!
仕事に戻って暫くして社長に呼び出された。
真っ赤な目をしていたから社長と向かい合って座らされても、ずっと下を向いていた。
そんな私を見て社長は、
「どうしてさっきから俺の顔が見れないんだ。」って聞いた。
見れないよ。社長。
「じゃあ君は何千人、何万人のファンの前でも同じ態度をとるのかい?
 そうやって、うつむいてるのかい?」
・・・・・。
「さぁ、見てごらん。」
そんなやさしい言葉をかけられて、私はひいたばかりの涙がまた溢れだしてきた。
すると、さっきのやさしい言い方とは、打って変わった厳しい口調で社長が言った。
「自分を恥じるな!」
もう私は部屋を飛び出してしまったの。
待ちなさいっていう社長の声と、止めようとしてつかまれた腕をふりはらって・・・・・。
どうしてあの時逃げたんだろう。
心の弱さをむきだしにされた時、何度も社長に、社長の歌に救われたのに。
本当に社長に注いだものは、きっと社長には伝わりきらずに途絶えてしまった。
私は強くないけど、それでもまわりの今にも崩れそうな人を守ってあげたい。
弱いからこそできるのかも知れない。
だって社長は、決して強い人間ではなかったから。
傷つき、傷つけられ、それでも人を信じて・・・・・。
もっともっと社長と一緒に仕事をしたかった。
’92のコンサートもすばらしいものにして、社長にゆっくり休んでもらいたかった。
全てを抱える事に耐えられなくなってしまったのかと思う様になったのは、
「何も失わぬようにと、だからこんなに疲れている。」
というNEWアルバムの歌詞を聴いてからだ。
今は前よりももっと痛切にこの意味が私の心に刻まれてる。
心の中に流れる「尾崎豊」を決して絶やさずに、これからも生きていきたい。
社長が大切に、大切にしていたファンの皆や、
お世話になった方々とこれからもずっと歩んでいきたい。
これが私の願いです。
皆が言う「尾崎豊は永遠」が本当なら、きっと叶うと信じています。
最後まで読んでくれて有り難うございます。
社長のご冥福を祈って終わりにします。
社長ゆっくり休んで下さいね。アイソトープを守ってね。